Indigo dyed fabrics
魅惑のインディゴ

ハワイの藍にこだわった藍手染の「ハワイアンブルー」

ナタリー・シャック
写真
マリー・エリエル・ホブロ

バケツの中には、どろっとした深みのある紺色の液体が入っている。オイ ルのように艶やかで濃淡のあるコバルト色が年輪のように何層にも広 がっている。ドナ・ミヤシロさんは慣れた目つきで中の液体を覗き込み、 青い線が何重にも染みついた木製の棒で、時折その液体を掻き混ぜ る。そこには腐敗し発酵した植物の鼻をつくような臭いが漂っている。 「トクと私はこういう匂いを嗅いでは『いいねー』と言って喜ぶの。臭 いが強ければ強いほどいい染料ができていたりするのよ。ラナ・レーン の工房のみんなはいい迷惑よね。何の匂い?とよく聞かれるわ」とミヤ シロさんは笑う。

ミヤシロさんとトクナリ・フジバヤシさんは、オーガニックのハワイ産 藍を使った手染め製品を製作するホノルル発のブランド「ハワイアンブ ルー」を手がける職人だ。カカアコで活動するアーティストグループのス タジオ「ラナ・レーン」が彼らの作業場となっている。ミヤシロさんは「ト クと初めて出会ったのは織物のワークショップだったわ。彼は京都で伝 統織物業を営む家系の13代目で、ハワイならではの藍染めを作るため に来ていたの」と話す。

ハワイの山中にひっそり生えている野生の藍を見つけたフジバヤシさ んは、それを持ち帰り、栽培し始めた。ミヤシロさんは「、ハワイの天然の 藍は、濃い紺色に染まる日本の藍とは全く違ったの。トクは、ハワイの空 や海のような色に染まる藍を作りたいと考えていたのよ」と説明する。 濃く濁った紺色をしたバケツに入った染料とは対象的に、ハワイアンブ ルーのバッグやポーチは優しいアクアマリンやベビーブルーのうっとり するような色合いだ。

今日、ミヤシロさんはアイエアの自宅で作業をしている。強い匂いを 放つ植物の葉を使った染料の入ったバケツが、ベランダのスライドドア の前に並べられている。中庭に差し込む太陽にあたって濃縮された色 素から余分な水分が分離し、上澄みができている。アーティストのミヤ シロさんの自宅はアートスタジオのようだ。藍染を作る以前は、ウェディ ングドレスや洋服を作っていたという彼女の部屋には、日本の織物をし ていた頃の名残りで織機が置かれている。部屋の壁には織物が吊るさ れ、村上春樹の小説がそこらじゅうに積み上げられた書物の中から顔 を覗かせる。正面の壁にはフリーダ・カロの作品を連想させるカラフル な椅子が置かれている。

ミヤシロさんは、色あせたように見える“ぼかし”と呼ばれる手法を使 ったスカーフの染め方を見せてくれた。彼女は仕事場となっている自宅 の中を行ったり来たりする。布の束と染めの準備ができている染料の入 ったバケツが並ぶダイニングテーブルから、扱いの難しい発酵中の藍の 染料を適温に保つためのヒーターがあるパティオへ移動し、勝手口か ら外に出ると今度はわずか2ヶ月で種から収穫できるまでに成長すると いう低木のタデ科の植物の藍を見せてくれた。麻や絹の染色を何度も 繰り返す彼女の爪もまた美しいデニム色に染まっている。

藍の性質を左右するのは何と言っても発酵である。それは時間のか かる工程で、ミヤシロさんはゆっくりと時間をかけて丹念に染料を作 る。この植物の葉に秘められた色素を最大限に引き出し、独特の輝きを 放つ鮮やかな色合いを生むためだ。藍染め染料を生成するには2つの 方法があるという。まず一つは、新鮮な葉を使った方法で、作業に要す る時間は短いが、一度しか使うことができない。葉が完全に水に浸かっ た状態で24時間置いて作る染料は、吸収性のある生地に適していて、淡い色合いに仕上がるのだそうだ。もう一つは、葉を温かい水に長時間 つけて、日本では「藍花」と呼ばれる花の蕾のような泡ができるまで発 酵させる方法だ。気候などの条件によって10日から2週間かかる。泡と 泡が合わさって濃くて深い色の花を咲かせるのだが、この花が艶やかで 鈍い輝きを帯びて来ると藍染の染料ができた証拠である。この発酵染 料はあらゆる生地に使用できるが、常に手入れをし、育てていかなくて はならない。「染料は子供のようなもの」というミヤシロさんは、発酵過 程を促進させるため、染料に酒や蜂蜜を与える。現在彼女が今育てて いる染料には、全ての染料に共通で使用している藍染の“藍”を含んだ「 アイタ」という名前がつけられている。

彼女は布をアイタにつけては取り出しすすぐという工程を、理想の濃 さになるまで何度も繰り返す。同じ染料を使っても仕上がりは常に変化 に富んでいて、時には透き通るような空の青やグレーがかったクールな ブルーに染まる。「同じ色を再現することはできないの。不確定要素ば かりで常に驚きの連続よ」とミヤシロさんは語る。

ハワイアンブルーのバッグやポーチ、スカーフはカカアコにあるセレク トショップ「Fishcake」で販売されている。一つ一つ手作りされている ハワイアンブルーの製品は、縫製に時間と労力がかかり、染めとすすぎ の工程を何度も繰り返すので、生産量が限られている。それでもこの二 人の作品を求め、大量の注文をする人やコラボレーションや新しいプロ ジェクトを提案する人が後を絶えない。二人はこれまでにカカアコのカ フェ「Arvo」と組んで2色使いのネットバッグを作ったり、靴メーカーの「OluKai」と藍染のキャンバス生地を使ったスリッパなどを製作してき た。だが基本的に、量産のために質に妥協したくないと考えるミヤシロ さんは、このビジネスを小規模のまま維持したいのだという。

「私は時間をかけて何かをすることが好きなの。日々の生活では全て があっという間に過ぎてしまうでしょう? 」とミヤシロさんは言う。「日 本の人たちは時間を惜しまず丁寧な物作りをするわね。お弁当屋さん 一つをとってもそうよ。15個の弁当を細部までこだわって完璧に作り、 それが売り切れたら終わり。時間をかけて丹念に仕事をする彼らの精 神って本当に素晴らしいと思うの」。

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シーズン3エピソード2
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藍の性質を左右するのだ時間のかかる発酵の工程だ。ミヤシロさんは藍の植物の葉に秘められた色素を最大限に引き出し、独特の輝きを放つ鮮やかな色合いを生むため、 時間をかけて丹念に染料を作る。

藍染についてミヤシロさんは、 「同じ色を再現することはできないの。不確定要素ばかりで常 に驚きの連続よ」と語る。

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ハワイアンブルーは、藍染めのバッグやポーチやスカーフを 限定数生産している。

ハワイで育った藍で作られた染料は、まるでハワイの空や海のような 優しいアクアマリンやベビーブルーの色合いに染まる。

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