土曜日の午後、パロロ渓谷の奥深くにあるムリャンサ寺院に呼吸法を 学びに来ている。10人ほどが集まった部屋では、ヴィパッサーナ瞑想 のセッションが行われている。この寺院で10年間、瞑想のインストラク ターを務めているという細身で髪の薄いグレゴリー・パイさんが指導し てくれる。彼は背筋をまっすぐに伸ばし、目を閉じたまま座っている。心 の平穏というものがあるとすれば、パイさんはとっくの昔に見つけてい るに違いない。
パイさんが音叉を地面に打ちつけると、レッスンは始まった。その甲 高い音色が私たちの意識を集中させてくれる。深呼吸する私たちに向 かって「体の中で呼吸を感じてください。呼吸に意識を集中して、心を 落ち着かせましょう」彼の規則的な口調が私たちを穏やかな気分にさ せてくれる。ドアを抜けて入ってくるそよ風に乗って、線香の香りがほの かに漂う。
宗教的なイメージがあり敬遠されつつあった瞑想は、テクノロジーの 進化とセルフケアへの関心の高まりにより、最近では特にミレニアル世 代の間で人気だ。マインドフルネス(意識を集中させ心をこめて物事を 行える状態)を謳う人たちの中には、その効果をクリスタルヒーリングや デジタルデトックスのような話題の健康法に例える人もいる。だがムリ ャンサで体験する瞑想は単なる流行ではなく、仏教の伝統に根付いた 習慣である。神聖な神器に囲まれて座禅を組めば、誰もが何十世紀に もおよぶ歴史と文化の重みを肌で感じることができるだろう。
それは霧に包まれたネパールの山頂にある僧院や、ビルマのジャ ングルにある秘境の地などに旅しなければ得られない経験だと思って いた。だが本物は必ずしもエキゾチックである必要はないのだ『。Eat, Pray, Love(食べて、祈って、恋をして)』という2010年公開のアメリカ 映画に出てくるようなスピリチュアルな自己探求の旅はここハワイに あった。
仏教は1800年代後半、ハワイのサトウキビ農園で働くために海を渡 った多くのアジア移民によってハワイ諸島へもたらされた。最初の寺院 は、プランテーション内に建てられた1階建ての木製の建物であった。 築100年を超えるパリ・ハイウェイ沿いにある本派本願寺をはじめ、い くつかの寺院は今も健在である。仏教は年を経てハワイに広まり、寺院 の数も増えていった。
広大な敷地のムリャンサ寺院は、韓国国外で最大の韓国仏教寺で ある。曲がりくねった坂を登りきった先にひっそりと佇む寺院の目下に は、青々とした谷が広がっている。四天王像が両脇に立つ門をくぐって 中に入ると、街の喧騒が一気に遠のく。オアフ島でもあまり知られてい ないこの寺院は閑散としていて、美しい中庭や優美に装飾された回廊 を一人静かに歩き回ることができる
瞑想には抵抗があるという人でも、韓国独自の建築形式を楽しめる この寺院は十分に訪れる価値があろう。ホノルル市郡の建築基準に基 づく規定の高さを越えてしまったこの寺院は、仏教様式では通常尖っ ているはずの屋根の棟が削られて平らになっている。それに由来して この寺院は、「壊れた棟の寺」を意味する「ムリャンサ」と呼ばれるよう になった。
「それは仏の教えにもある逸話です」とムリャンサの住職であるドゥヒ ョンさんは教えてくれた「。ブッダは悟りの境地に達するためには、私た ち自身の内にある無知の砦を打ち砕かなくてはならないと教えていま す。この寺の棟を壊さなければならなかったこともそれと同じです」。
ある夏の午後、オアフ島にあるもう一つの寺院には大勢の人が集ま っている。コオラウ山脈のふもとのカネオヘにある無宗派の仏教寺院、 平等院テンプルは、ハワイで最も人気のある観光スポットの一つであ る。1日あたり何百人もの訪問者がこの寺院を見学しに訪れる。先祖の 霊を迎えて供養する迎え盆にあたる今夜も例外ではない。
寺院の入り口にある橋に沿って一列に吊るされた提灯が灯ってい る。中庭には、揚げ菓子やお守りの出店がたくさん並んでいて、太鼓のリ ズムにあわせて踊る人たちや、寺の池に生息する黒鳥や孔雀を一目見 ようと敷地内を散歩する人たちで賑わっている。寺の敷地の角には、山 から水が流れ出る水が小さな滝となって注ぐ鯉の泳ぐ池があり、人里 離れた風情のある小道を散策することができる。
平等院テンプルは1968年、ハワイの日系移民100周年を記念し、 宗教や宗派を問わないメモリアルパークの「バレー・オブ・ザ・テンプル ズ」に建立された。鐘楼から2メートル70センチの仏像を収めた本堂ま で全てが、日本の宇治市にある平等院を縮小したスケールモデルであ る。2018年にこの寺院は建立50周年を迎え、記念イベントが開催され た。山の向こうに夕日が沈み、数十人の拝観者が敷地内に廻らされた水 路に灯篭を流すと、水面を照らす灯篭の灯りで平等院はまるで暗闇の 中で燃え立っているかのようであった。
コオラウ山脈のリーワード側にあるハワイ大神宮。質素な外見の大 神宮は、ハワイで最も古い神社の一つである。1900年代に建立され、 激動の時代を経た今もハワイで神道を信仰する人々の拠り所となって いる。第二次世界大戦中、日系移民が強制収容された際には、大神宮 の元の建物も押収され、米国政府によって競売にかけられたという。そ れでも神主たちの信仰心が揺らぐことはなかったとハワイ大神宮の岡 田章宏宮司はいう。戦後、大神宮は現在のヌウアヌ渓谷に再建された。
地元のコミュニティに信心深い氏子のいるハワイ大神宮は、年末年 始には新年の祈祷やお祓いに大勢の住民で賑わう。幸運の神様として 知られる大神宮の境内のテーブルや棚には、縁結びから交通安全まで あらゆるご利益のあるお守りが並ぶ。年始の初詣に厄除け祈願に訪れ る人も多い。
岡田宮司は「マインドフルになることは大切です。一年の終わりにお 祓いをしないと次は1年後まで待たねばなりません。すると悪運は倍に なるのです」という。中にはこのような考えを受け入れがたいと考える人 もいるかもしれないが、実際にこの場所を訪れたのなら、そのご利益に あやからずに去ってしまうのは惜しい。岡田宮司は別れを告げようとす る私を呼び止め、お祓いしてくれるという。大麻(おおぬさ)を振ってお 祓いする宮司をじっと見つめる私の心に、何重にも重なって聞こえる祈 りの声が次第に一つの和音になって響く。祈りは前触れもなく始まり、 終わった。そして私は心が軽くなったような気分で歩き出した。運が良 くなっていることを祈りながら。
土曜日の午後、パロロ渓谷の奥深くにあるムリャンサ寺院に呼吸法を 学びに来ている。10人ほどが集まった部屋では、ヴィパッサーナ瞑想 のセッションが行われている。この寺院で10年間、瞑想のインストラク ターを務めているという細身で髪の薄いグレゴリー・パイさんが指導し てくれる。彼は背筋をまっすぐに伸ばし、目を閉じたまま座っている。心 の平穏というものがあるとすれば、パイさんはとっくの昔に見つけてい るに違いない。
パイさんが音叉を地面に打ちつけると、レッスンは始まった。その甲 高い音色が私たちの意識を集中させてくれる。深呼吸する私たちに向 かって「体の中で呼吸を感じてください。呼吸に意識を集中して、心を 落ち着かせましょう」彼の規則的な口調が私たちを穏やかな気分にさ せてくれる。ドアを抜けて入ってくるそよ風に乗って、線香の香りがほの かに漂う。
宗教的なイメージがあり敬遠されつつあった瞑想は、テクノロジーの 進化とセルフケアへの関心の高まりにより、最近では特にミレニアル世 代の間で人気だ。マインドフルネス(意識を集中させ心をこめて物事を 行える状態)を謳う人たちの中には、その効果をクリスタルヒーリングや デジタルデトックスのような話題の健康法に例える人もいる。だがムリ ャンサで体験する瞑想は単なる流行ではなく、仏教の伝統に根付いた 習慣である。神聖な神器に囲まれて座禅を組めば、誰もが何十世紀に もおよぶ歴史と文化の重みを肌で感じることができるだろう。
それは霧に包まれたネパールの山頂にある僧院や、ビルマのジャ ングルにある秘境の地などに旅しなければ得られない経験だと思って いた。だが本物は必ずしもエキゾチックである必要はないのだ『。Eat, Pray, Love(食べて、祈って、恋をして)』という2010年公開のアメリカ 映画に出てくるようなスピリチュアルな自己探求の旅はここハワイに あった。
仏教は1800年代後半、ハワイのサトウキビ農園で働くために海を渡 った多くのアジア移民によってハワイ諸島へもたらされた。最初の寺院 は、プランテーション内に建てられた1階建ての木製の建物であった。 築100年を超えるパリ・ハイウェイ沿いにある本派本願寺をはじめ、い くつかの寺院は今も健在である。仏教は年を経てハワイに広まり、寺院 の数も増えていった。
広大な敷地のムリャンサ寺院は、韓国国外で最大の韓国仏教寺で ある。曲がりくねった坂を登りきった先にひっそりと佇む寺院の目下に は、青々とした谷が広がっている。四天王像が両脇に立つ門をくぐって 中に入ると、街の喧騒が一気に遠のく。オアフ島でもあまり知られてい ないこの寺院は閑散としていて、美しい中庭や優美に装飾された回廊 を一人静かに歩き回ることができる
瞑想には抵抗があるという人でも、韓国独自の建築形式を楽しめる この寺院は十分に訪れる価値があろう。ホノルル市郡の建築基準に基 づく規定の高さを越えてしまったこの寺院は、仏教様式では通常尖っ ているはずの屋根の棟が削られて平らになっている。それに由来して この寺院は、「壊れた棟の寺」を意味する「ムリャンサ」と呼ばれるよう になった。
「それは仏の教えにもある逸話です」とムリャンサの住職であるドゥヒ ョンさんは教えてくれた「。ブッダは悟りの境地に達するためには、私た ち自身の内にある無知の砦を打ち砕かなくてはならないと教えていま す。この寺の棟を壊さなければならなかったこともそれと同じです」。
ある夏の午後、オアフ島にあるもう一つの寺院には大勢の人が集ま っている。コオラウ山脈のふもとのカネオヘにある無宗派の仏教寺院、 平等院テンプルは、ハワイで最も人気のある観光スポットの一つであ る。1日あたり何百人もの訪問者がこの寺院を見学しに訪れる。先祖の 霊を迎えて供養する迎え盆にあたる今夜も例外ではない。
寺院の入り口にある橋に沿って一列に吊るされた提灯が灯ってい る。中庭には、揚げ菓子やお守りの出店がたくさん並んでいて、太鼓のリ ズムにあわせて踊る人たちや、寺の池に生息する黒鳥や孔雀を一目見 ようと敷地内を散歩する人たちで賑わっている。寺の敷地の角には、山 から水が流れ出る水が小さな滝となって注ぐ鯉の泳ぐ池があり、人里 離れた風情のある小道を散策することができる。
平等院テンプルは1968年、ハワイの日系移民100周年を記念し、 宗教や宗派を問わないメモリアルパークの「バレー・オブ・ザ・テンプル ズ」に建立された。鐘楼から2メートル70センチの仏像を収めた本堂ま で全てが、日本の宇治市にある平等院を縮小したスケールモデルであ る。2018年にこの寺院は建立50周年を迎え、記念イベントが開催され た。山の向こうに夕日が沈み、数十人の拝観者が敷地内に廻らされた水 路に灯篭を流すと、水面を照らす灯篭の灯りで平等院はまるで暗闇の 中で燃え立っているかのようであった。
コオラウ山脈のリーワード側にあるハワイ大神宮。質素な外見の大 神宮は、ハワイで最も古い神社の一つである。1900年代に建立され、 激動の時代を経た今もハワイで神道を信仰する人々の拠り所となって いる。第二次世界大戦中、日系移民が強制収容された際には、大神宮 の元の建物も押収され、米国政府によって競売にかけられたという。そ れでも神主たちの信仰心が揺らぐことはなかったとハワイ大神宮の岡 田章宏宮司はいう。戦後、大神宮は現在のヌウアヌ渓谷に再建された。
地元のコミュニティに信心深い氏子のいるハワイ大神宮は、年末年 始には新年の祈祷やお祓いに大勢の住民で賑わう。幸運の神様として 知られる大神宮の境内のテーブルや棚には、縁結びから交通安全まで あらゆるご利益のあるお守りが並ぶ。年始の初詣に厄除け祈願に訪れ る人も多い。
岡田宮司は「マインドフルになることは大切です。一年の終わりにお 祓いをしないと次は1年後まで待たねばなりません。すると悪運は倍に なるのです」という。中にはこのような考えを受け入れがたいと考える人 もいるかもしれないが、実際にこの場所を訪れたのなら、そのご利益に あやからずに去ってしまうのは惜しい。岡田宮司は別れを告げようとす る私を呼び止め、お祓いしてくれるという。大麻(おおぬさ)を振ってお 祓いする宮司をじっと見つめる私の心に、何重にも重なって聞こえる祈 りの声が次第に一つの和音になって響く。祈りは前触れもなく始まり、 終わった。そして私は心が軽くなったような気分で歩き出した。運が良 くなっていることを祈りながら。
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