五感を呼び覚ます場所

楽園ハワイの景観とイスラムの美術遺産が織りなす美しい空間、「シャングリ・ラ」

ティファニー・ヒル
写真
ジョン・フック

シャングリ・ラ・イスラム美術文化デザイン博物館の見学ツアーに参加している。中へ一歩足を踏み入れると一斉に「わあ、すごい!」という感嘆の声が上がった。 「ここを訪れる皆さんがそうおっしゃるんです」。緑と青の美しいトルコタイルや色とりどりに輝くステンレスガラスや壮麗なモロッコ風の天井を見上げ、きょろきょろする私たちに、通訳ガイド歴7年のスーザン・キリーンさんが微笑む。ホノルルの東にあるこのドリス・デュークの旧邸宅は、壮麗な玄関と23mのプールで区切られた2つの建物で構成されている。その中にある寝室と中庭、庭園など11の空間をスーザンさんが案内してくれる。

タバコ王ジェームズ・ブキャナン・デュークの一人娘だったドリス・デュークは、莫大な資産家の家庭に生まれた。ドリスは1935年に最初の夫であったジェームズ・クロムウェルと新婚旅行の最後にオアフ島を訪れた。以来、ハワイに魅了された夫妻は、別荘を建てるため、東ホノルルに約5エーカーのビーチフロントの土地を購入し、ジェームズ・ヒルトン作の冒険小説『失われた地平線』の舞台となった理想郷にちなんで「シャングリ・ラ」と名づけた。相続した莫大な遺産でアジアやアフリカ、中東の旅行中にイスラム美術を収集しながら、芸術の助成や環境保全に取り組む慈善家として活動したドリスは、作品のキュレートや委託を行い、世界中から集めたアート作品で壁やドアから天井までを埋め尽くし、数十年かけてシャングリ・ラを完成させた。

1960年代に入ってから、約4,500にのぼる芸術作品を集めたこの邸宅を博物館にすることに決め、2002年に一般公開された。博物館のコレクションと展示を担当するキュレーターのレスリー・ミシェルセンさんは、「シャングリ・ラはイスラム世界の芸術文化を専門に扱うアメリカでも珍しい博物館です。米国内でも最高水準のイスラム美術コレクシ ョンがホノルルにあることを知り、皆さん驚かれます」と語る。

シャングリ・ラ・イスラム美術文化デザイン博物館では、 ドリス・デュークの生涯ではなく、イスラム世界の芸術と文化に焦点を当てているとミシェルセンさんはいう。「プライベートなドリスは、彼女の個人的な生活ではなく、貴重なコレクションを公開するためにシャングリ・ラを博物館にしたいと考えていました。私たちは、先見の明のあった創設者の遺志を汲んでいるのです」。

キリーンさんが案内してくれた館内の各部屋には、数多くの繊細で美しい芸術品が、建築の一部や展示品として飾られている。オスマン帝国のギャラリーでは、大理石の床と金箔の扉に圧倒され、その中でも特に希少な文化遺産であるというコーランを見せてくれた。「トルコから持ち込まれた1853年のコーランは、中のページが金で塗られています」。

最近改装されたばかりのムガール・スイートは、真っ白な大理石の床と壁、アーチ型をした左右対称の天井からなるドリスの寝室で、壮麗な家具と彼女がタージ・マハルを訪れた際にインスピレーションを得た華美な格子模様が施された屏風が置かれている。中央の中庭には、約2万枚のタイルで作られたイランのモザイクが高く聳える。イスラム式のテントを模して、コバルト色の全長414mものインド産の織物で覆われたダイニングルームは、重さ113kgのバカラ製シャンデリアに飾られ、息を飲むほどの美しさだ。

シャングリ・ラの中で私のお気に入りは、ふかふかのクッションが並ぶ座り心地の良いソファが中央にあるリビングルームだ。その隣の部屋には、イランのイマームザダ・ヤヒヤの墓から持ち出された大きな陶磁器製のミハラブ(祈りを捧げるニッチ)がある。1265年に作られたこの邸宅の中で最も貴重なもので、光沢のあるセラミック技術の傑作とされています」とキリーンさんが説明してくれた。

私たちがツアーの最後に訪れたのは、重厚な黒いドアの先に広がるムガール・ガーデンだ。インドの王室庭園に着想を得たガーデンには、手入れの行き届いた木や植物に囲まれ、蓮の形をした噴水のある細長いプールがある。庭を出て、通りかかったドアの上に書かれたアラビア語の碑文についてキリーンさんが解説してくれた。「直訳すると、『 偉大なる神。偉大なる神の栄光』という意味ですが、イラン人の二人の同僚に口語で何と言うか尋ねたところ、皆さんの第一声と同じ、『わあ、すごい!』という意味だそうです」。

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シーズン 5 エピソード 1
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コンラッド・インさんは、シャングリ・ラ・イスラム美術文化デザイン博物館のエグゼクティブディレクターだ。

「シャングリ・ラは、イスラム世界の芸術文化を専門に扱うアメリカでは数少ない博物館です」。

豊かな緑に囲まれた敷地には、日常から離脱した静かな時間が流れる。

シャングリ・ラのプログラム キュレーターのアサッド・ ジャファリ氏。

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楽園ハワイの景観とイスラムの美術遺産が織りなす美しい空間、「シャングリ・ラ」

ティファニー・ヒル
写真
ジョン・フック

シャングリ・ラ・イスラム美術文化デザイン博物館の見学ツアーに参加している。中へ一歩足を踏み入れると一斉に「わあ、すごい!」という感嘆の声が上がった。 「ここを訪れる皆さんがそうおっしゃるんです」。緑と青の美しいトルコタイルや色とりどりに輝くステンレスガラスや壮麗なモロッコ風の天井を見上げ、きょろきょろする私たちに、通訳ガイド歴7年のスーザン・キリーンさんが微笑む。ホノルルの東にあるこのドリス・デュークの旧邸宅は、壮麗な玄関と23mのプールで区切られた2つの建物で構成されている。その中にある寝室と中庭、庭園など11の空間をスーザンさんが案内してくれる。

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シーズン 5 エピソード 1
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タバコ王ジェームズ・ブキャナン・デュークの一人娘だったドリス・デュークは、莫大な資産家の家庭に生まれた。ドリスは1935年に最初の夫であったジェームズ・クロムウェルと新婚旅行の最後にオアフ島を訪れた。以来、ハワイに魅了された夫妻は、別荘を建てるため、東ホノルルに約5エーカーのビーチフロントの土地を購入し、ジェームズ・ヒルトン作の冒険小説『失われた地平線』の舞台となった理想郷にちなんで「シャングリ・ラ」と名づけた。相続した莫大な遺産でアジアやアフリカ、中東の旅行中にイスラム美術を収集しながら、芸術の助成や環境保全に取り組む慈善家として活動したドリスは、作品のキュレートや委託を行い、世界中から集めたアート作品で壁やドアから天井までを埋め尽くし、数十年かけてシャングリ・ラを完成させた。

Konrad Ng is the executive director of Shangri La Museum of Islamic Art, Culture, & Design.

1960年代に入ってから、約4,500にのぼる芸術作品を集めたこの邸宅を博物館にすることに決め、2002年に一般公開された。博物館のコレクションと展示を担当するキュレーターのレスリー・ミシェルセンさんは、「シャングリ・ラはイスラム世界の芸術文化を専門に扱うアメリカでも珍しい博物館です。米国内でも最高水準のイスラム美術コレクシ ョンがホノルルにあることを知り、皆さん驚かれます」と語る。

“Shangri La is one of the only museums in the United States which is completely devoted to the arts and culture of the Islamic world.” — Leslee Michelsen, museum curator of collections and exhibitions

シャングリ・ラ・イスラム美術文化デザイン博物館では、 ドリス・デュークの生涯ではなく、イスラム世界の芸術と文化に焦点を当てているとミシェルセンさんはいう。「プライベートなドリスは、彼女の個人的な生活ではなく、貴重なコレクションを公開するためにシャングリ・ラを博物館にしたいと考えていました。私たちは、先見の明のあった創設者の遺志を汲んでいるのです」。

キリーンさんが案内してくれた館内の各部屋には、数多くの繊細で美しい芸術品が、建築の一部や展示品として飾られている。オスマン帝国のギャラリーでは、大理石の床と金箔の扉に圧倒され、その中でも特に希少な文化遺産であるというコーランを見せてくれた。「トルコから持ち込まれた1853年のコーランは、中のページが金で塗られています」。

Abundant greenery surrounding the property instills a sense of privacy and isolation.

最近改装されたばかりのムガール・スイートは、真っ白な大理石の床と壁、アーチ型をした左右対称の天井からなるドリスの寝室で、壮麗な家具と彼女がタージ・マハルを訪れた際にインスピレーションを得た華美な格子模様が施された屏風が置かれている。中央の中庭には、約2万枚のタイルで作られたイランのモザイクが高く聳える。イスラム式のテントを模して、コバルト色の全長414mものインド産の織物で覆われたダイニングルームは、重さ113kgのバカラ製シャンデリアに飾られ、息を飲むほどの美しさだ。

シャングリ・ラの中で私のお気に入りは、ふかふかのクッションが並ぶ座り心地の良いソファが中央にあるリビングルームだ。その隣の部屋には、イランのイマームザダ・ヤヒヤの墓から持ち出された大きな陶磁器製のミハラブ(祈りを捧げるニッチ)がある。1265年に作られたこの邸宅の中で最も貴重なもので、光沢のあるセラミック技術の傑作とされています」とキリーンさんが説明してくれた。

Asad Jafri is the curator of programs at Shangri La Museum of Islamic Art, Culture, & Design.

私たちがツアーの最後に訪れたのは、重厚な黒いドアの先に広がるムガール・ガーデンだ。インドの王室庭園に着想を得たガーデンには、手入れの行き届いた木や植物に囲まれ、蓮の形をした噴水のある細長いプールがある。庭を出て、通りかかったドアの上に書かれたアラビア語の碑文についてキリーンさんが解説してくれた。「直訳すると、『 偉大なる神。偉大なる神の栄光』という意味ですが、イラン人の二人の同僚に口語で何と言うか尋ねたところ、皆さんの第一声と同じ、『わあ、すごい!』という意味だそうです」。

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